■ ほら、泣かないで


母のように優しく友人のように暖かな狼に似た姿の魔物、彼女は森に入ってすぐの道端に横たわっていた。大きな身体には無数の矢が刺さり、白く輝く自慢の毛は赤く汚れている。王都から来た騎士団たちによる魔物狩りが行われたのだ。

「…ど、どうして…こんな…」

血で服が汚れてしまうことなどお構いなしに、魔物の姿を腕に抱えて少女――シャーリィは瞳に涙を溢れさせる。大粒の涙が頬を伝い魔物の頭へと落ちていく。
少女が泣いていることに気が付いた魔物は朦朧とした意識の中ゆっくりと頭を上げ弱々しく舌を動かし涙を拭い始めた。

「ッ!だめ、動いちゃ――…」

「あんたが、泣いているのに…放っておけないさ…」

穏やかな口調で魔物は言葉を返し、何度も何度も頬に舌を這わせる。しかし――…突然、少女の腕に何か重いものがのしかかった。

腕の中には白い魔物が優しい表情をして瞳を瞑っている。鼻先から息が漏れておらず、すでに呼吸をしていない。

重たくなった彼女の身体を精一杯腕に抱えて少女は大きな声で泣き叫んだ。


-END-



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